第1回
「贈りもの」とは「はからう」こと。
贈りもののカタチには意味がある
——— 普段の暮らしの中で、プレゼントや手土産を買ったりもらったりすることはありますが、「贈りもの」というと、ちょっと改まってしまいますよね。そういう改まった贈答品を選ぶときに、何を差し上げればいいか困ってしまいます。
女将贈りものはもともと「神様への捧げ物」を示していたんですね。収穫物を神様にお供えし、感謝の気持ちを形に表したのが贈りもの。
だから、贈りものの「カタチ」には意味があります。
例えば、「のし紙」ってあるでしょ。
先日、あるブライダルのお客様が、結婚式の引き出物で、のし紙をしてから包装し、リボンをかけてラッピングしてほしいと言われたんです。見た目はとても可愛いけれど、これは贈りものとしてはやってはいけないことなんです。
——— そうなんですか? 知らずについやってしまいそうですが。
女将本来、リボン結びは解けるもの。結婚式や快気祝いなどは、「二度とあってはならないことですよ」という意味で、日本では、ほどけない「結び切り」というカタチののし紙を使います。代わりに、何度あっていいお慶びごとには「蝶結び」を使います。
この場合、せっかく結び切りののし紙を使っているのに、リボン結びは蛇足。
結婚式というハレの場に関わっていると、こういう知らずにやっている間違い、けっこう多いんですよ。
お手本は、お殿様のおもてなし
——— 気持ちを「カタチ」に表したのが贈りもの、っていう意味が、なんとなくわかりますね。女将にとって贈りものの「カタチ」ってどんなものですか?
女将「粋なはからい」でしょうか。
女将例えば、栗林公園(香川県)に「掬月亭(きくげつてい)」という江戸時代のお殿様の大茶室があります。通常、お茶室は床の間があるところが上座。ここでも、入り口がある池に面した側から遠い場所に床の間が置かれています。
ところが「掬月亭」は、そもそもお客様をもてなすための場。だから、お客様が座りたい場所が上席なんですよ。例えば、客人が今日は天気がいいから池の側でお茶を飲みたい、月が綺麗だから水面に映る月を愛でながら一服したいとなれば、床の間とは逆の下座に座らせてしまうことになる。
——— 難しいですねぇ。
女将そこでお殿様は考えたんですね。
池側の天井は漆の和紙貼り、床の間の上はすのこの素貼りに。つまり、地上では床の間のある方が上座ですが、天上ではそれが逆になり、どちらに座ってもあなたがいる場所が上席ですよ、という風にはからったんです。
また、「掬月亭」にはお部屋それぞれに玄関があります。
当時の茶室は政治の場でもあるので、客人同士が顔を合わせないよう、それぞれに門と入口を設け、客人をみな同等に扱うよう配慮しました。しかも、表裏があると、裏口から客人を招くことになってはいけないので、「四方正面」という考え方で、敢えて表裏をつくらなかったんですね。
これも主のはからいだし、「ここで話すことはすべて裏表なし」というおもてなしの心の表れでもあります。
すべては、相手をどれだけ「おもんばかれるか」、ことだと思いますね。
——— お茶を飲むだけでなく、それ以上の相手への配慮がおもてなし。そこまで心を配ることが日本人の粋だということですね。
女将今は贈りものというと、モノの価値ばかりが重視されるけど、贈るときのカタチや、贈りものを整えるプロセスにも、気を配ることが、贈りものの第一歩じゃないですかね。(つづく)